構成写真の第一人者として国際的に高く評価され、ニューヨーク近代美術館をはじめとして世界の主要な美術館で個展を多数開催してきたトーマス・デマンド。
初期作品から最新作までデマンド作品の全貌を大々的に紹介する、日本の美術館における待望の初個展。
thomasdemand
デマンドは主に政治的、社会的事件が起きた現場の風景を、写真をもとに厚紙で精巧に再現し撮影。
2008年、太平洋航海中に大嵐に襲われた豪華客船パシフィック・サン号での事故2年後にインターネットで公開され、話題になった大きく揺れる船内の様子をとらえた衝撃映像をモチーフにした最新作が本邦初公開。
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ただの現場写真と思えばそれは精巧に紙で出来たつくりものだという。
美術館に行くまで作品は小さいものだと思っていたけれどしかしほとんどが巨大な作品だった。
大きな作品を前にしてようやくコンセプトが見えてきた。
一周そして解説書を手にとってもう一周

ひとつひとつの写真の元になった画像・写真・場の再現に徹底している。
非リアルがどこか遠まわしにリアルに伝わってくる。

作家は学生時代に彫刻を学んでいてつくり込まれた画面は徹底的。
紙であるはずの素材がそれぞれの素材感をはなって見えるのが不思議に思えてならなかった。
無機質のものが硬さややわらかさ、重さまで感じられるくらい緻密。
人が居ない虚無感というより強烈にそれぞれの事件を風刺しているように見えた。
だれかが意図的に撮られた写真からその中に写っているひとつひとつの物体の設計図を描き、つくり、配置して、撮影。
気が遠くなる作品である。

パシフィック・サンの映像も全て紙で出来ていてストップアニメーションで撮影されたもの。
ハリウッドの精鋭人とともに緻密に動きを計算して映像プランを細かく設計し撮影されたとのこと。

最初見たときは東北関東大震災の横浜ランドマークのレストランだと錯覚したけれど
オーストラリアの客船の事故映像が元になったとか。
元映像はこちら


カメラが固定されているのでどこまで船が傾いているのかがわからないけれど
人のあたふたさが目にいく

作品はその人が排除され
左右にそれぞれのスピードで物体が滑っていくのはとっても滑稽。
地震後ひも状のものや、つるされているものにどうしても目が行くようになったのだけれど
この作品で一番目が行ってしまったのが奥の傘の突いた電球だった。
この電球が揺れる同時に机や椅子が滑っていく。
画面奥だけでなく手前の皿やレモンなども激しく動いていく。
何度見ても面白い作品だった。

最後のフィルムで投影されている雨とエスカレーターも投影機が見えるように展示されていて粋だなぁと思った。
これはフィルムで無いと駄目なんだということだと思う。
とても骨のある作品ばかりで圧倒されっぱなしだった。